東京高等裁判所 昭和26年(ネ)2342号 判決
控訴代理人は、「原判決中、控訴人敗訴の部分を取消す、被控訴人より控訴人等にたいする長野地方法務局所属公証人劔持延治作成第二六、七一七号金銭消費貸借公正証書の執行力ある正本にもとずく強制執行は、原判決中控訴人ら敗訴部分(元金十一万円及びこれにたいする昭和二十四年八月七日から完済まで百円につき一日金十銭の割合の遅延損害金の請求)についてはこれを許さない。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。
事実関係について、控訴代理人は、
(一) 仮に控訴人らの従来の主張が理由ないものとしても、被控訴人は控訴人西村にたいし、本件公正証書記載の金十三万円の貸付をするにあたり、その一割五分に相当する金一万九千五百円を謝礼金名義で天引し、残金十一万五百円を交付したのみであるから、右天引部分の貸借は利息制限法第四条により無効であり、本件残元金は右金十一万五百円より被控訴人において内入弁済を認める金二万円を差引いた金九万五百円にすぎない。
(二) また被控訴人は、訴外上原輝俊にたいする強制執行の際、昭和二十四年二月十九日本件公正証書による債権にもとずき配当加入の申立をし、本件残元金中に金八千七百一円三十七銭(内金九十二円は配当要求手続費用)の配当を受けたことが明かであるから、これを差引かないでした本件強制執行は不当であると述べた。<立証省略>
三、理 由
一、控訴代理人は、昭和二十六年七月十二日の当審口頭弁論期日において、原判決事実らん記載のとおり事実関係を述べ、本件公正証書記載の金十三万円の消費貸借の成立を認めた。したがつて控訴代理人が当審において新たに主張した(一)の事実は金十三万円の消費貸借の成立を一部否認し、金十一万五百円の限度においてのみ消費貸借の成立を認めるものであり、右は自白の取消と解されるものである。しかるに当審における弁論の全趣旨によると、右自白の取消は被控訴代理人において同意しなかつたものと認められるから、右自白は控訴代理人の錯誤にいで、且つ真実に反することが立証されなければその取消は許されないものである。ところが本件訴状、昭和二十六年六月五日附、同年九月十日附各控訴人提出の準備書面には本件金十三万円の貸金中、金一万九千五百円が天引、交付されたことが記載されており、控訴代理人は右の事実を十分に知つていたことがうかがわれる。しかるに昭和二十六年十月十二日の原審における最終口頭弁論調書によると、同代理人は右期日において裁判官にたいし、本件金十三万円の貸借の成立については争わない旨を表示したことが認められる。よつて以上の事実によると控訴人の自白はなんら錯誤にもとずくものではなかつたことが明りようであるから、右自白にかかる事実が真実に反するかどうかにかかわらず、前述のような自白の取消は許されないものである。
二、成立に争のない甲第三、四号証によると、被控訴人が訴外上原輝俊にたいする強制執行により、昭和二十四年二月十九日金一万五百八十一円二十一銭の競売売得金の配当を受け、その内金八千七百一円三十七銭は配当加入債権金十六万五千三百九十八円二十五銭にたいする配当であることが認められるけれども、右配当加入債権には本件金十三万円の元利金債権がふくまれていることは本件におけるいかなる証拠によつても肯定できない。原審証人上原輝俊は右強制執行において、被控訴人が本件債権により配当加入を申立てた旨供述するけれども、右は成立に争のない乙第四号証と対照し、信用できない。よつて控訴人の当審における新たな主張(二)も理由がない。
三、控訴人西村の成立を認める乙第三号証及び原審における被控訴本人の供述によると、本件貸金についての一ケ月一割五分の遅延損害金の約定は、その名の示すとおり民法第四百二十条または利息制限法第五条にいう損害額の予定ないしは損害の補償についての約定であつて、貸付期間内の利息についての定でないことが明かであるし、右損害金の割合は今日の金融取引の実情をかえりみるときは、必ずしも高率とのみはいい切れないから、右約定をもつてたやすく公序良俗に反する無効のものであると解することはできない。また貸金業等の取締に関する法律、同法の準用する臨時金利調整法及び臨時金利調整法第二条第一項の規定に基く金融機関の金利の最高限度(昭和二十三年一月十日大蔵省告示第四号)は貸金業等による貸金の利息の最高限度を定めたもので、(右告示における金利の最高限度は日歩金三銭にみたない。)前記のような損害の補償等についての約定に関するものではない。したがつて本件損害金の約定は貸金業等の取締に関する法律の施行前であつたから無効であるとする控訴人の主張はもとより失当であつて、ただ右損害の補償または損害の予定は、利息制限法第五条により相当であるか否かが判定の対象とされるのである。そしてなお成立に争のない甲第五号証の一及び控訴人西村の成立を認める乙第二号証によると、控訴人西村は昭和二十四年八月十七日当時被控訴人にたいし、元金十一万円及びこれにたいする昭和二十四年二月十七日以降の遅延損害金の支払義務あることを認めたことが確められ、この事実によると、控訴人が仮に本件債務につき、一ケ月金一割五分の割合による遅延損害金を支払つたことがあつたとしても、右はすでに当事者間に任意授受されて弁済の充当があつたものと解するを相当とするから、いまさらこれを公正証書記載どおりの割合による損害金の支払に引直し、充当することを主張する控訴人の主張は理由がない。
四、以上述べたほか、当裁判所は原判決理由と同一の理由により控訴人等の本訴請求を失当と判断するからここに右理由を引用する。(ただし、原判決第八枚目裏五行目以下は前記三に述べるところと異なる点があるからこれを除く。)よつて原判決中控訴人敗訴部分の取消を求める本件控訴は理由がないから、民事訴訟法第九五条第九三条第八九条に則り主文のとおり判決する。
(裁判官 藤江忠二郎 原宸 浅沼武)